1897年の創業以来、革新的な医薬品の開発に取り組むとともに、健康増進に向けた取り組みも積極的に行っている住友ファーマ株式会社。今回は製薬会社として実施した出島戦略について、住友ファーマ株式会社に在籍しながら株式会社do.SukasuのCTOを務める落合康さんに話を伺いました。
住友ファーマ、落合さんのご経歴
住友ファーマ株式会社 フロンティア事業推進室 開発企画担当オフィサーの落合康です。
株式会社do.Sukasu(Co-Studio株式会社子会社)ではCTOを務めさせていただいています。
製薬業界を志した背景
大学時代に所属していた研究室からの繋がりでご縁がありました。その研究室から大手企業への推薦があったことがきっかけで製薬業界に入りました。
入社後、最初はあまり真剣に仕事に取り組んでいませんでした。(笑)
仕事は定時で帰り、土日をいかに充実させるかを考えていました。このような働き方をしていたら、徐々に仕事の中で面白さや、やりがいを見つけるようになり、次第に自分の仕事に対するモチベーションに繋がり遊びのような感覚で仕事にのめり込んでいきました。結果的には、それが今の自分の仕事のスタイルになっています。
入社後の取り組み、ターニングポイント
当時すごく優秀だった先輩がご家庭の事情で退職することになり、年功序列で見たらたまたま僕がNo.2だったんですよ。
それでリーダーを任せてもらって、さすがに指示を出さないといけない立場になるから、ちょっとだけ真面目にしようと思ったんです。それが面白くなってきてそこから本当に仕事にのめり込んでいきました。
リーダーとして携わっていたプロジェクトは他の製薬会社の受託業務で、OTC(一般用医薬品)の開発プロジェクトでした。
ある商品の風邪薬製品の設計から開発、申請、製品化までを担当しました。一般薬は通常、病院で処方される薬と比べて開発期間が短く、審査基準も定められているので世に出すことを目的とした場合の成功確率は高いです。
この分野でのプロジェクトに携わり、通常の病院向け医薬品の開発期間が15年かかる所を、3〜4年で同じプロセスを終えることが出来ました。そのことがキャリアにおける節目であり、次なる挑戦へのきっかけにもなりました。
その後は病院向けの新薬の開発に取り組んでいましたが、残念ながら途中でプロジェクトは頓挫しました。新薬の種がなかなか上がらず、会社内で新たなアプローチを考え、薬のリニューアルやプロダクトライフサイクルマネージメント(PLCM)の導入を提案しました。
薬のリニューアルで特許期間延長と成功を掴む「プロダクトライフサイクルマネージメント」とは?
過去の新薬が苦境に陥った時、新たな事業戦略を模索していました。
その中で薬のリニューアルや剤形変更(リニューアル)により付加価値をつけて、収益を確保するアイデアを提案したんです。
このプロダクトライフサイクルマネージメントの導入により、新しいビジネスアプローチを始動しました。その時リーダーとして、様々な既存品のライフサイクル延長や競合分析を行い、PLCMに基づく開発品の企画・研究・開発をしました。
しかしながら、特許切れやジェネリックの台頭により、新たな課題に直面することもありました。
これまでの過去の成功を踏まえ、新たなテーマの探索に取り組み、化合物を使用しないで「技術だけ」で健康の可能性を模索することも実施してみたいと思い、デジタルヘルスケアを実践する部門を設立することを提案しました。この部署では様々な新しい取り組みを推進し、ウェアラブル脳波計の開発や紫色の光での精神疾患の治療などにチャレンジしています。
現在の取り組み:新規事業創出や出島出向などにおけるリアル
フロンティア事業推進室の私と同じ立場のメンバーは、3人がそれぞれ異なる部門で同様の提案をしていたことで新たな部署が出来ました。
その中の1人がCo-Studio株式会社の澤田さんと出会い、澤田さんの情熱や熱意に魅了され全く新しい新規事業創出プロジェクトを始めることになりました。
私はそこに巻き込まれる形で0→1のアイディエーションのもとを提供し、プロトタイピング、特許出願に関わりました。
全く新しい課題と切り口だったため、非常に広範な出願が行えたこと、早期に我々のアイディアに共感し、POCを行えるフィールドを提供してくれる会社が見つかったこともあり、このアイディアのPOC取得、ビジネス仮説の検証を行うことを目的に新会社do.sukasuを設立することになりました。
当初、住友ファーマには副業の制度がまだ整っていなかったため、do.sukasuに参画してやりたいことを実現するのは難しい状況でした。
そこで、人事部に住友ファーマをやめることなく、do.Sukasuに参加できるようにしてほしいと相談し、これを機に部分出向という柔軟な働き方の制度が誕生しました。
大企業での新しい制度を短期間で作ってもらうのは大変でしたが、運良く過去に一緒に苦労した営業の担当者が人事部長に就任し、会社的にも副業の制度を検討していた段階でもあったことで、早期の制度実現がかないました。この新しい働き方の制度ができたことが、プロジェクトに取り組むための大きな一歩目となりました。
一般的に新規事業の成功や失敗は予測が極めて難しく、挑戦してみないと分からないと思います。ただ、闇雲に挑戦してもそのプロジェクトが上手くいっているのか、何が原因で上手くいってなく、それは上手くいかせることができるのかを見極められないことになってしまいます。ですので、始める前に計画を立案することは重要です。その上で、挑戦してみてわかること自体が非常に貴重な財産で、そのことをもとに計画はどんどん方向転換やブラッシュアップされていくことが価値が増すと思います。
しかし、大企業の中では、一度定めた計画を変更することが難しい状況があります。
計画立案、実行は担当者でも、その計画を承認し、予算をつけるのが目的や手段などの大きな変更がなく概ね計画どおり進む既存事業の経験しかない新規事業をわかっていない上位者だからです。意思決定者の柔軟性のなさが、新しいアイディアやアプローチを生かすのを難しくしていると思います。
また、大企業の新規事業では、失敗を許容せず、ピボットやリトライする柔軟性が不足していると感じますし、それが成功の障害になっていると思います。
do.sukasuも当初のヘルスケアターゲットから現在の運転事業への方針変更がなければここまで進んでいなかったと思いますし、製薬会社である住友ファーマで安全運転寿命の延伸事業への取り組みプロジェクトが進めることは難しかったと思います。
本記事を通じて、大企業での新規事業立ち上げのリアルな側面を共有し、大企業の新規事業担当者の方が参考にできる情報になれば嬉しいです。
出島で事業を行っていく上で得た知見
大企業での新規事業推進は、他部門や上層部の了解、契約整理など多方面、多層にわたる多くのプロセスを経る必要があり、それらの手続きには時間とコストがかかります。
特に法務や知的財産などの領域では、やってみないとどうなるか全くわからないプロジェクトが成功して相手方ともめた場合を想定した契約整理が複雑で時間を要することがありますし、予算の面でも、大した額でもないのに説明コストや手続きの複雑さがあるためにパートナーとの間の時間間隔のずれが大きいことがあります。
すべてのプロジェクトは潜在か顕在化を問わず競合がいるにもかかわらず、新規事業において何もできない期間が発生することのリスクを既存事業でしか業務をしていない人たちには理解してもらえないと感じます。
また、新たに創出する新規事業は計画が立てられないうえに、スピードがはやいので、そこに充てる予算が確保されていないことが多く、その面でも実行するのは難しいです。
それに加えて、大企業内での新規事業は既存の文化や慣習、ルール、組織の構造などが影響します。
特に新しいアイデアやアプローチを導入すると、それら既存の構造に適応させるための調整も必要となり、プロセスを遅らせる要因になります。このような状況でスピードとフレキシビリティを保ちながら事業を推進するのは難しいので、出島を通して、社内整理や説明するコストが抑えられることが、迅速な意思決定や実行に繋がると感じています。
今後の野望
do.Sukasuとしての展望は収益化ですね。
現在は事業に必要なデータやシステムが整い、具体的な事業パートナーも絞られてきている状況です。
今後は収益化を達成し、自らの資金で研究開発を進め、事業を拡大していくことを目指しています。会社が収益化で成功すれば、投資先や協力企業が自然に現れ、成長が進むと確信しています。その成果を示す宣伝材料やエビデンスを僕がどう出していくかが重要だと思っています。
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